人から音楽をもらうことについて

春。街に梅と水仙、湿気の匂いが立ち込め、気もそぞろで落ち着かない。あまりのことに冬の間は情緒が死んでいたのではないかとすら思う。 随分更新していなかった。思いつきで始めた書きものは三日と続かないのが常だが、こうして三年ぶりに開く気になるときもまたくるので不思議である。

さて。最近、ひとからLPを貰った。LPといっても往年の名盤などではなく、つい昨年出たばかりの新作だ。最近はCDよりLPの売上のほうが多いらしい。その歌手は僕も好きな人で(最近ライブに行ったりもした)、レコードのジャケットはラメが入ってキラキラしている(ライブでのその人の衣装もキラキラしていた)。レコードの中身のアルバム自体はサブスクで百回近く聞いているので、特に新しみもない。しかしいざ形のあるものとして貰ってみると、アルバムに対する印象がだいぶ変わっていることに気づいた。

特定の知覚がそれと強く結びついた記憶を呼び覚ます、というのは一般的なことだと思う。自分は匂いとか湿度(それこそ春の雰囲気は空気を媒介してやってくる)が何かしらの記憶と結びついていることが多いのだが、音楽というのはこれまでなかった。これはおそらく、自分の音楽の聞き方が二通りに限定されているためだと思う。音楽を聞くために音楽を聞くとき、それから単にBGMとしてである。前者はそもそもの記憶が「音楽を聞く」ことに主眼を置いているので対応する別の記憶などないし、後者であれば音楽をあまり覚えていなかったりする。

しかしここで、ひとから音楽を貰ったりすると、突然そのひとの記憶や風景がその音楽と結びつくのである。これまで「音楽を聞くと往年を思い出す」とか「時代の空気感を吸い込んだ音楽」みたいな言説は、頭ではわかるものの、今ひとつ体感としてわからずじまいだった。浅はかと言われればそうだが、実際に人から音楽を貰ったことで初めてわかった気がした。みんな、何か大事な記憶をその音楽と結びつけていたのだと思う。音楽のストリーミングサービスは楽しいし大好きなのだが、ただ一点「ひとに音楽をあげる」ことができなくなったのは寂しいものかもしれない。ともかく、それはとても嬉しいものだから。